さて実はここからが本題なのですが、狩猟鳥の中に絶滅危惧種のエゾライチョウ(情報不足)が含まれたままである事に強い疑問を感じざるを得ません。狩猟鳥獣を定めた環境省令が全く時代に合わなくなっています。一方でレッドリストを作成しているのも同じ環境省であるにも関わらずです。他の条文とも合わせて前述の第十三条を読み替えると「農業又は林業の事業活動に伴い捕獲等又は採取等をすることがやむを得ない狩猟鳥獣(エゾライチョウ)は(銃器、網又はわな以外の猟法による場合には)狩猟可能区域において、狩猟期間内に限り環境大臣又は都道府県知事の許可を受けないで捕獲等又は採取等をすることができる」という事になりそうです。
絶滅危惧種については「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)の網が掛かっていると思われがちですが下記の様にレッドリストに載っているからと言って必ずしも同法の対象とは限らないのです。
絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)<抜粋>
第九条 国内希少野生動植物種及び緊急指定種<中略>の生きている個体は、捕獲、採取、殺傷又は損傷<中略>をしてはならない。<以下略>
条文中の「国内希少野生動植物種」リストにも「緊急指定種」にもエゾライチョウの名は見当たりません。つまり同法では捕獲等の禁止の対象ではないのです。個体数が減れば減るほど剥製などにした場合に稀少価値が付きますから更に個体数の減少が加速する事になるでしょう。合法的な経済活動に何の問題も有りません。だからこそこのままの状態を放置すれば近い将来トキやコウノトリの様に手遅れになってから多大な経費と手間を掛けて人工繁殖する事態を招いたり野生絶滅したりする危険性が極めて高いと言わざるを得ません。「絶滅危惧」と言いながら「危惧」するだけに終っていては何も改善されないのではないでしょうか。
しかしここまで見て来て明らかな様に少なくとも28種の狩猟鳥以外の大多数の野鳥(日本鳥類目録改訂第7版に記載されている野鳥は633種、他に外来種が数種、そのほか外国に分布する野鳥も迷鳥として渡来の可能性も有る)については正当な理由無く勝手に捕まえてはいけないし狩猟鳥についても条件が有るので勝手な解釈で勘違いしない様にご注意ください(ここに記載した内容も法律について専門知識の無い素人が野鳥保護の観点から現状に警鐘を鳴らす目的で勝手な解釈をしているだけのものです)。まかり間違うと下記の通り懲役という罰則が有ります(厳密に正しい法解釈が知りたければ弁護士等にご確認ください)。
「鳥獣保護法」の罰則は最高1年以下の懲役、「種の保存法」は最高5年以下の懲役となっています。
鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護法)<抜粋>
第八十三条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。 <以下略>
絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)<抜粋>
第五十七条の二 第九条、第十二条第一項又は第十五条第一項の規定に違反した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
管理人コメント:
以前の激論(激論!投稿コーナー002参照)で「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」(鳥獣保護法)が話題に上って以来ずっと心の片隅に引っ掛かっていて正確に認識しておかねばと思い暇に任せて改めて調べてみたのでちょっとお付き合い下さい。
この法律は明治28年制定、大正7年ほか改正の旧法「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」(狩猟法)をベースとした法律(更に歴史を遡れば明治6年の「鳥獣猟規則」が始まり)のため野鳥の保護と言うよりはむしろ狩猟のルールになってしまっているものという漠然としたイメージを持っていたのですが条文を読み込んでみると案の定ちょっとした穴が見つかったので一野鳥ファンの主観で私見を書かせてもらいます。この法律は時代が意外に新しく平成14年に施行されています(事実上昭和38年の狩猟法改正を鳥獣保護法の制定という見方も出来る様ですが)。
まず旧法の条文を見てみましょう。
鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(狩猟法)<抜粋>
第四条 狩猟免許ハ甲乙丙ノ三種トシ狩猟免状ヲ交付ス
何の前提も無くいきなり狩猟免許の免状を交付すると書かれています。
確かに狩猟鳥獣以外の鳥獣については、
第一条ノ五
狩猟鳥獣以外ノ鳥獣ハ其ノ捕獲<中略>ヲ為スコトヲ得ス
とありますが、「ノ五」という事はこの条項が後の時代に追加されたものだと分かります。つまり当初は許可制ながら狩猟のルールを定めた法律になっていた事が分かります。平たく言えば、
(※1)
原則;野鳥を狩猟しても良い
例外;但し一定の条件の下では狩猟してはならない
という法体系なんだと思います。野鳥保護を目的としているとしたら狩猟を前提としたこういう体系の法律では狩猟出来ない場合の条件を事細かに決めねばならず抜け穴だらけという事になってしまいます。すなわち旧法は狩猟の為の法律と思われます。野鳥保護を目的とするなら、
(※2)
原則;野鳥を狩猟してはならない
例外;但し一定の条件の下では狩猟しても良い
という法体系の方が合理的です。
では現在の法律はどうなっているかと言うと、
鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護法)<抜粋>
第八条 鳥獣及び鳥類の卵は、捕獲等又は採取等<中略>をしてはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
<中略>
三 第十三条第一項の規定により同項に規定する鳥獣又は鳥類の卵の捕獲等又は採取等をするとき。
となっていて条件付きで狩猟が可能となっているのです。その条件の一つ「第十三条第一項の規定」が、
第十三条 農業又は林業の事業活動に伴い捕獲等又は採取等をすることがやむを得ない鳥獣若しくは鳥類の卵であって環境省令で定めるものは<中略>環境大臣又は都道府県知事の許可を受けないで<中略>捕獲等又は採取等をすることができる。
という訳です。
「捕獲等又は採取等をすることがやむを得ない」をどう解釈するかによっては「環境省令で定める鳥獣及び鳥類の卵は、許可を受けないで捕獲等又は採取等しても良い」となるのです。もちろん農作物に深刻な被害が及ぶほど食害が見過ごせない場合を想定していると思われますが甚だ曖昧な表現と言わざるを得ません。
確かに法体系は一応上記(※2)の形態を取ってはいますが「許可を受けないで」捕獲等又は採取等することができるからには第十三条のこの部分はもっと具体的に記述されていなければならないと考えます。そもそも「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」の「管理」とは、
第二条 <中略>
3 この法律において鳥獣について「管理」とは、生物の多様性の確保、生活環境の保全又は農林水産業の健全な発展を図る観点から、その生息数を適正な水準に減少させ、又はその生息地を適正な範囲に縮小させることをいう。
と定義されており平たく言いかえれば「駆除」を意味しているものと思われます(「狩猟」は別に定義されています)。
基になっているのが今ほど物流が発達しておらず食糧事情の厳しかった古い時代の法律なのでどうしてもこうなってしまうのでしょう。もちろん「農林水産業の健全な発展」のお陰で今の我々が有る事を否定するつもりは有りませんが「生物の多様性の確保、生活環境の保全」もまた人間が健康で文化的に生きて行く為に不可欠だとするなら法律の穴は埋めて行かねばならないと考えます。
ところで古い話を蒸し返す訳ではありませんが激論!投稿コーナー002において投稿者さんが「許可を受けて捕獲をした鳥獣のうち、対象狩猟鳥獣以外の鳥獣を飼養しようとする者は、 その者の住所地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない」という条文を引用して「結構色々な野鳥を飼う事が可能である」ように思われると指摘されています。この条文は第十九条の一部です。ついでと言っては何ですがこの条文についても考察してみたいと思います。
第十九条 第九条第一項の規定による許可を受けて捕獲をした鳥獣のうち、対象狩猟鳥獣以外の鳥獣<中略>を飼養しようとする者は、その者の住所地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない。<以下略>
でその「第九条第一項の規定」というのが、
第九条 学術研究の目的、鳥獣の保護又は管理の目的その他環境省令で定める目的で鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵の採取等をしようとする者は、次に掲げる場合にあっては環境大臣の、それ以外の場合にあっては都道府県知事の許可を受けなければならない。<以下略>
また「狩猟鳥獣」の定義は第二条に有ります。
第二条
7 この法律において「狩猟鳥獣」とは、希少鳥獣以外の鳥獣であって、その肉又は毛皮を利用する目的、管理をする目的その他の目的で捕獲等<中略>の対象となる鳥獣(鳥類のひなを除く。)であって、その捕獲等がその生息の状況に著しく影響を及ぼすおそれのないものとして環境省令で定めるものをいう。
つまり、通して読み下すと「学術研究の目的、鳥獣の保護又は管理の目的その他環境省令で定める目的で鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵の採取等をしようとする者が都道府県知事の許可を受けて捕獲をした鳥獣のうち、その捕獲等がその生息の状況に著しく影響を及ぼすおそれのないものとして環境省令で定めるもの以外の鳥獣を飼養しようとする者は、その者の住所地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない」というに過ぎないのです。条文の前提として既に「都道府県知事の許可を受けて捕獲をした鳥獣のうち」という条件が付されているうえ「その捕獲等がその生息の状況に著しく影響を及ぼすおそれのないものとして環境省令で定めるもの以外の鳥獣」(要するに狩猟鳥獣以外の鳥獣)については「登録を受けなければならない」と義務付けられているだけであって、「狩猟鳥獣については許可無く捕獲し飼養しても良い」とはどこにも書かれておらず依然として第八条が生きているのです。第八条を打ち消しているのは第八条ただし書きのみです。従って第十九条の条文だけを以って「結構色々な野鳥を飼う事が可能である」と考えるのは必ずしも正確ではありません。法律の条文は複雑に関連し合って構成されていますから部分的に切り取って法解釈するのは間違いの元という事なのでしょう。とは言え裏を返せば「狩猟鳥獣」には28種の野鳥及び外来種がリストアップされていますから一定の条件さえ満たせば投稿者さんご指摘の通り「結構色々な野鳥を飼う事が可能である」と言える状況には違いないと思われます。一例として第二条、第九条、第十九条を合わせ読むと「鳥獣の生息数を適正な水準に減少させる目的で都道府県知事の許可を受けて捕獲した上記28種については登録を受けずに飼養が可能」と解されます。
なお狩猟鳥獣については、
第十一条 次に掲げる場合には、第九条第一項の規定にかかわらず<中略>鳥獣保護区<中略>休猟区<中略>その他生態系の保護又は住民の安全の確保若しくは静穏の保持が特に必要な区域として環境省令で定める区域以外の区域(以下「狩猟可能区域」という。)において、狩猟期間<中略>内に限り、環境大臣又は都道府県知事の許可を受けないで、狩猟鳥獣<中略>の捕獲等をすることができる。<以下略>
となっており、許可を受けなければ狩猟する事が出来ない区域を鳥獣保護区、休猟区、環境省令で定める区域などといちいち指定する形になっていて、狩猟可能区域を指定する形にはなっていません。つまり、
原則;狩猟可能区域
例外;鳥獣保護区、休猟区、環境省令で定める区域
という法体系になっている訳です。これなどはまさしく旧法の名残りであって、逆に
原則;鳥獣保護区
例外;狩猟可能区域
という体系に改めた方が法律全体の整合性という観点から合理的だと考えます。
鳥獣保護法について
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